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2026/10/12
世界映画史上に名高いチャップリン不朽の名作です。サイレント(無声)映画ですが、ここには映画の持つ詩情性、優美性、物語性、批評性の全てがあります。殊にラストシーンの見事さは筆舌に尽くし難い。世界中の人々を笑いと涙の渦に巻き込んだ作品です。
時代は1920年代のアメリカ。映画は盛大な除幕式のシーンで始まります。紳士淑女のスピーチに続いて幕を引き下ろすと銅像に抱かれるように汚いなりの浮浪者チャップリンが寝ています。群衆の罵声を浴びた彼は必死に銅像から降りようとするのですが、ズボンが銅像に引っ掛かって降りれません。この辺りの身のこなしと柔らかい身体ギャグの見事さ。なんとか銅像から降りて街角へ出た時、美しい盲目の花売り娘(ヴァージニア・チェリル)と出会います。チャプリンは、なけなしのお金を渡して花を買うのですが、盲目の娘は目の前に停まっていた高級車の紳士と勘違いしてしまいます。
この作品は1928年12月から撮影が開始されましたが、終了したのは1930年10月です。如何に時代が良かったとは云え、実に2年近く掛けて撮影した作品です。上映時間は86分です。黒澤明の傑作「椿三十郎」が98分です。近年、映画は長尺ものが増え、3時間近い作品も珍しくありませんが、90分に満たない尺でも名作は可能だという事をこの2作品は証明しています。又、チャップリンは素晴らしい俳優であると同時に徹底した優秀な映画監督でした。
特にこの盲目の花売り娘と浮浪者の主人公、二人の出会いのシーンはなんと342テイクを重ね、総撮影日数534日のうち368日をこのシーンだけに費やしています。たった3分のシーンに1年余り。流石の黒澤明も真っ青です。
その夜、主人公は夜の岸壁でぐでんぐてんに酩酊して自殺しようとしている大金持ちを助けます。そして、社会的地位の最底辺にいる浮浪者が地位も名誉もあり大変恵まれている失意の大金持ちにこう云うのです。「明日が来れば鳥も唄います」「悲観せずに立ち上がりなさい。」チャプリンは1920年代(ローリングトゥエンティ)アメリカ大不況を背景に地位と人間性の逆転を大上段に振りかぶらず、しかし、痛烈な皮肉を持ってこの二人の人物対比で伝えました。この夜の岸壁で何度も繰り返される二人しての海への飛び込みシーンは爆笑ものです。
この大金持ち(ハリー・マイアーズ)が曲者で、ベロベロに酔っぱらった時だけチャップリンを思い出し、「友よ」などと云っては抱き締めるのですが、素面に戻ると全く別人となり、執事に云って彼を屋敷から追い出したりします。チャプリンは娘の目を直す為、お金を稼ぎにボクシング大会に飛び入りします。リング上での審判を交えた大男とチャプリンの3人の動きが余りにも可笑しくて爆笑してしまいます。主人公はあの手この手で善戦しますが結局ノックアウトされます。
ところが、街中で再び泥酔状態の大金持ちと再会し、屋敷で1000$貰います。当時の1000$は大金です。娘の元へ急ごうとするのですが、折り悪しく屋敷に入った泥棒と間違われて追われます。やっとの思いで盲目の娘の元へ辿り着き、お金を与えた後、逮捕され、牢獄へ。この牢獄の入り口でチャプリンは咥えタバコをヒョイと体の後ろへ放り投げ、片足でポンと蹴り上げます。たった数秒のシーンですがその仕草の見事さ!
時が経ち、秋が来て釈放された主人公は再び浮浪者の姿で街へ出ます。新聞売りの少年達に莫迦にされながら通り掛かった素敵な花屋の店先。彼が渡したお金で手術が成功して眼が見えるようになった娘が忙しく立ち働いている。そこへ破れたボロボロの衣服をまとったみすぼらしい浮浪者チャプリンが通り掛かる。哀れに思った娘が思わず声を掛け、小銭を恵もうと手を差し伸べる。逃げ腰になりながらも受け取ろうとした浮浪者の手に触れた瞬間、娘は「ああ、この人だ」と直感する。 ここからが世界映画史上最も有名なたった3行の言葉のやり取りです。
YOU ? あなたなのね?
YOU CAN SEE NOW ? 見えるようになった?
YES I CAN SEE YOU ええ、見えますわ
身をよじらせて、はにかむように指を噛む仕草のチャプリン。そしてENDマーク。無一文の浮浪者が、たまさか手に入った貴重なお金を一切の見返りを求めず、一見の少女に全て捧げ尽くす。無償の愛の極致。全ての国境を越え、海峡を越え、民族を超え、諍いを超えて、美しい曲、暖かい涙と共に永遠に語り継がれる名ラストシーンです。